どんなに素晴らしいストーリーでも、殺陣や剣の振りが下手くそならその映画は失敗だというのが、時代劇の難しさでもあるのだが、木村拓哉さんの木刀や剣の振り、殺陣はお見事であった。
『武士の一分』は前にも述べたように、藤沢周平さんの短編集『隠し剣秋風抄』に収録される、『盲目剣谺(こだま)返し』が原作となっている。ストーリーは毒味役中に貝毒に当たって盲目になった若き藩士が、武士の一分のために上司を切るという物語で、それ自体は単純とも言えるストーリーである。
昨年公開された、『蝉しぐれ』では長編なので、割愛されたところが多く、ダイジェスト版のようだ、という声もあったが、今回の原作は短すぎて、しかも、同じ山田洋次監督の【たそがれ清兵衛】【隠し剣鬼の爪】は2~3話の短編を原作にしているのに対し、今回は一話だけなので、どのように作られるのか興味があった。
映画の出だしから、登場人物の性格付けのようなものがあり、木村さん扮する三村新之丞がややおしゃべりすぎるのではないか、と思ったが物語が進むうちに気にならなくなった。妻の加世役の檀れいさんは実に気品ある美しさで、惚れてしまった。映画を観るといつもそうだ・・・・・
ストーリーは細かい違いはあれ、ほぼ原作に忠実であり違和感は全くない。ただ、【武士の一分】という言葉が、全体で(当然後半だが)4回も出てきて少しくどいように思えた。武士の一分は全体の流れで、充分に我々が理解できるものなのだ。
ラストシーンは涙のシーンだが、これはどこがどうとは言えないが原作の微妙な文章の方が泣ける。ぜひ両方を見くらべていただきたい。
映画館は同年代の夫婦でいっぱい、「こらこら、そこのおっさん、したり顔で奥さんに解説なんかするんじゃないよ」
映画は静かに淡々と観るものなのだ。
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